えーん えーん
無邪気に泣いたのはいつだろう
いつから泣けなくなったのか?
小さい頃はよく泣いた
大人になった今は恥ずかし気もなく泣ける
泣きたくても泣けない時代に突入してしまった
そんな中学生のお話です
\前回のお話はこちら/
泣きボクロのスケバン
薄暗い女子トイレに正座させられている、下は湿って汚いタイル、目の前でクスクスと笑う女子奥井。
スケバン大崎は俺を一発殴り、腕を組んだまま睨みつけている。
とにかくガッキがシメられることを回避しなければならない、ここまできたらやるしかない。
と同時に涙が溢れてきちゃう、歯を食いしばるってこういう時に使うのかな、食いしばっていると涙のバケツに蓋が閉まる。
「新垣さんをシメるの勘弁してください、大会のために毎日自主練して頑張っているんです」
「あいつが調子に乗っているから悪いんだろ、一回シメねーとわかんねんだよ」
泣くな俺!ここで泣いたら男じゃないぞ、でも鼻水はいいか、アレルギーのせいにしよう。
相変わらず口の中は鉄の味がして、ほっぺの内側が切れている、舌先の確認でわかる。
その傷に救われた、傷の大きさが気になって口の中で舌先をペロペロしていたら、涙の波がスーッと引いていった。
今ならちゃんと喋れる、と思った瞬間に後ろから声がした。
「大崎さん、もう勘弁してやったら」
3年生の泣きボクロで妖艶なスケバンが言った。
いつものように胸元のバックリ開いた開襟シャツに、真っ黒なブラ、下を引きずっちゃう程のロングスカート。
忘れてはいけないのが、ロケットのような自己主張の強いお胸。
正座をしたまま振り向いた俺。
天使でした!スケバンではなく天使。
下から眺めるお胸はすごいのなんの、それ越しのお顔と今にも泣きだしそうなお目目と涙ボクロ。
今の俺と同じ目になっている~と思いながら。
なにも言えないまま下から眺めるのみ。
大崎「マジ、コイツと新垣関係ねーべ」
ほくろ「どうでもいいだろ、ほっておきなよ」
大崎の方を一回見たが、やっぱり泣きボクロのほうがいいアングルなのでこっちを見る、下からのお胸ね。自己主張の強いやつね。
土砂降りの雨、雲の切れ間から虹が出てきた、俺には見える。七色の虹。
泣きボクロスケバンの右お胸と左お胸にかかったきれいな虹。
「お願いします!ガッキをシメるの勘弁してください!」元気に言った。
鼻水は出っ放し。
奥井はもう笑っていない、キョトンとしている。
大崎「ツア!」舌打ち。
俺は大崎を見る。
目が合った瞬間、頷いた。
頷いたといってもこくんと顎を下に下げるのではなく、くんと顎を前に押し出す感じで。
チョットはしゃいだ。
「マジで!マジで!ありがと!助かったー!マジ!ありがとう!」
3年生の泣きボクロスケバンが先頭になってトイレを出ていく、大崎が二番目、少し頬笑んでいるように見えたが俺の勘違いかもしれないかな。
今、しっかりと覚えていることは、やたらと奥井がガン飛ばしながら出て行ったこと。
えっ!なんでそんなに俺を恨んでいるんだろう?なんでなんでなんで?
いまだに分からないまま。
スケバンたちが出ていき女子トイレにひとりで正座!!
しびれたー
めっちゃ
しびれたー
動けねー
脚を伸ばして、ポンポンしたけどダメだ、でも早く出ないとちかんと勘違いされてしまう。
ぜんぜん脚の感覚がないまま、壁をはって生まれたての小鹿のように。仔馬でもかまわない。
女子トイレ脱出。
ガッキシメられる!
回避成功
ミッションクリア
言葉がわからない
思ったよりもダメージが少なく済んだ、なら部活に行こう。
その前に水道でうがい、水を口に含んだ時にはピリッと痛みが走り、ペッとしたら既に固まったゼラチンのような血が流れた。ふーっと深いため息が出る。
遅れて部活に参加。
ガッキは相変わらず黙々と真剣に走っている。
(ガッキ!もうシメられない俺が食い止めたからな!)
ダメダメそんなこと言ったらカッコ悪い。しかもそんなに気楽に話しかけたことないし。
でも早く安心させてあげたい、でもでも恩着せがましいのはカッコ悪い。
と考えているうちに部活は終わり、着替えて校門に向かう途中にすれ違ったのだけど、なんて言っていいのか言葉を知らないおバカ男子。息を吸って話そうとしたのにそのまま息を吐いただけ。
ガッキは一回も目を合わせることなく帰っていった。
とっても機嫌が悪そうに見えたが仕方ない、きっとあしたのシメられることで頭がいっぱいのはずだ。
なんで「もう大丈夫だよ」が言えなかったのだろう。
後悔していた
最後の手紙
電話をかけることも考えたが、そんな勇気はないよね、女子からかかってきたことはあるけど、自分からかけたことはない。
お父さんが出たらガチャンと切ってしまう自信がある。
LINEがあったらすぐに言えたのに、時代を恨もう。
水曜日の朝を迎える
やはり朝練もガッキは不機嫌そうな、怯えてそうな表情のまま。
お胸もいつもより小さく感じるEカップ。
心では言っていたんだけど
(大丈夫、大丈夫だから安心して)聞こえないよね、テレパシーがあればよかった。
言いたいのに言えないまま時間だけが過ぎていく。
しかし朗報が届いた。
二時間目の休み時間に洋子が持って来てくれたガッキからの手紙。
ワニオ君へ
シメられなくなりました
○○さんから
もう来なくていいからといわれ
よかったです
なぜ急にこうなったのかは
分かりません
午後の部活行けます
新垣 えみ
ガッキのクラスのスケバンが言ってきたようだ。
理由を言わなかったのはプライドだろう。
(俺が大崎に言ったんだぜ!)
なんて言ったことがわかったら、ガッキどころではなく俺もシメられるに違いない。
それくらいはわかる。
もう黙っていよう
大いなる勘違い
その日の午後練は期待していた、シメられ回避でガッキも明るさを取り戻し、微笑んでくれるだろう。
それか今日は一緒に帰ったりするかも。
心配ごとがなくなり、心おきなく恋愛モードに突入するはずだから。
だが!
みごとに期待は外れた。
なんでこんなにも不機嫌なんだろ、まったく俺のことを見てくれないし、笑いもしない。
すれ違う時にバンバンアピールしながら横を通るも、反対側の下を向いている感じで。
なんかおかしい、
俺のこと気になってるっていったよね、一緒に帰ったりもしたよね。
なんでそんなに冷たい態度なんだろう。
俺、ガッキのために頑張ったんだよ、頬笑んでよ!
悩んだ。なんなんだ、何か事情でもあるのか?
次の日から手紙もくれなくなり、洋子に聞いてもわからないって言うし。
手紙をもらう前にタイムスリップしたような感じ。
わからないまま何日かたった。
もちろんその間にはアピールをしまくったけどいっさい俺を見ることはない。
お胸を見ていることがバレたかな?
午後練が終わり、着替えて校門へ向かう。
校門に向かったワニオが見た先には!!
見知らぬ男とイチャつくガッキ
この学校の生徒ではない
普段着姿
歳は同じくらいか少し上
肌はこんがり小麦色の
イケメン
きっとスポーツマン
ドラマで見たようなリアクション。
持っていた手提げバッグをストンと落とし口をポカンと開けて。俺
あれ
えっ!
あれあれ
俺、ガッキと付き合っているよね!
チョットチョット!
もう一回聞くよ!
俺ガッキと付き合っているよね!
陸上部男子も女子もざわつく。
実は、前にガッキと一緒に帰ったことがすぐに広まって、ワニオとガッキが付き合っていると認識されていた。
(当時の一年生は、まだカップルが2~3組しかいなくて注目の的)
このシチュエーション!
部活の終わる時間はみんな一緒だから、結構な人数が目を丸くして通り抜けていく。
校門の外側
私服を着て日に焼けたイケメン(満面の笑み)、真っ正面にたつガッキ、パーソナルスペースなんて関係なくぴったぴたの距離で、瞳をウルウルさせた大好きですよーなお目目。(見たこともない満面の笑み)
校門の内側
汗臭い制服にだらしなく開けた口、顔色は白、白には200色あるというが青に近い白、これもだらしなくぶら下げた肩掛けカバンに足元に落とされた汗臭いジャージの入ったバッグ。瞳をウルウルさせて現実を吞み込めないで立ち尽くすワニオ。完全に呼吸するのを忘れている。
(中途半端にニヤついた顔。きっとムカつく顔)
周りの友達
テニスのラリーを見ているかのようにガッキとワニオを交互にみる。
手をつないでピッタリ寄り添って帰っていったー!!
知らない学校のやつがこの荒れていて有名な学校に乗り込んでくる。相当勇気のあるやつだ。
なんて感心している場合ではない。
友達はアタフタしながら「あいつガッキの弟じゃん」と言って変な慰めをしたが、ガッキの弟は歳が離れているといっていたし、イチャイチャしないしあんな手のつなぎ方もしない。
まって
もしかして
俺の
勘違い
ガッキの手紙
「ワニオ君のこと気になっています」
気になっています?
気になる?
好きなんて一言も言っていない?
いっていないよね
付き合ってほしいなんて一言も言っていない?
いっていないよね
ん? ん? ん?
大崎と俺が友達だったの知っていた?
シメられるのをやめさせるために俺を利用した?
いやいやいや、そんなに人を疑っちゃダメだ!
その気になって調子に乗っていた?
用が済んだら関係ない?
そうだったのか
これじゃ見えない
そうだったのか!
俺
勘違いしていたんだ!!
ねえ
俺
だっせえ
カッコ悪い
勘違い?
付き合っている?
気になっていた?
だっせえ
俺だっせえ!!
勘違い!!
つづく
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