クゥーン フゥーン
僕とテツの出会いは
突然やってきた!
玄関の横で寂しそうに鳴いていた
鼻も顔も真っ黒な柴犬の雑種
生まれて間もない赤ちゃん
名前はテツ
僕がつけてあげたんだ
いい名前でしょ!
小学4年生の僕とテツのお話
(1984年 昭和59年)
1980年代、第一次ペットブームを迎える。しかし世の中はまだまだ動物を飼うマナーを確立しておらず、放し飼いや、フンなどの後始末もまったく気にも留めない時代。
道を歩けば必ず犬のフンが落ちていた。学校の校庭にもたびたび野良犬が入ってきては生徒たちを追いかけまわしていたし、通学の途中犬に嚙まれる生徒もいて問題に。
野良犬が増えすぎて市では野良犬駆除なども行われていた。そんな今とはかけ離れた時代のお話です。
念のために。
テツとの出会い
友達がいなかったわけではない。
友達を作るのが苦手だったわけでもない。
ただ誰とも仲良くできなかった時の話。
小学4年生に上がる時、クラス替えが行われた。
なんと新クラスには、3年生の時に仲の良かった友達も、家の方向が同じ友達もいなかった。
かといって、誰にでも気軽に話しかけられる性格でもない僕は、ひとりでいた、誰かが話しかけてくれることを待って。
しかし僕以外の人は、もともとの友達とうまくマッチしていたようで話しかけられることは期待できない。
そして、ひとりの登下校が始まる。
「寂しかった」
ひとりで歩いていると、コイツは友達もいないダメな奴だと思われているんじゃないかって考えてしまう。まあそうなんだけど。
一番嫌だったのは、げた箱から校門までは校庭を横切らなくてはいけないこと、ポツンとひとりで歩く校庭。
背中には校舎がある、窓からみんな笑っているのかな、誰かが後ろ指を指しているのかなって思いながら振り向かずに歩く。
校門を出るとほっとため息がでるんだ。
もうひとつ難関がある。
それは家に入る時だ。
お母さんはよく言う「あんたね、ただいまぐらい元気に言いなさいよ」
いつもは元気だよ、でも今は無理。ひとりで下を向いて歩いていると、どうしても暗い気持ちになってしまうから。
玄関を開ける前に深呼吸をして、ちょっと笑顔を作り「ただいまー」と大きめの声で。
キツイ。
そんな日が何日か続いたある日、
いつものように平屋ボロアパートの玄関の前で深呼吸をしている時に聞こえてきた。
クフーン!クフーン!
と犬が鼻を鳴らす声だ。
小さい頃から動物大好き、テレビ番組の「ムツゴロウとゆかいな仲間たち」を楽しみに見ていたくらいだ。
二軒続きの平屋おんぼろアパート、隣の家との1メートルくらいの狭い隙間から聞こえてくる。
胸がときめき、走って見に行く!
そこには・・・!!
生まれて間もない
子犬が一匹
鼻を垂らして震えていた
急いで走り家の玄関を開ける!
興奮気味に!
お母さん!ただいまー!!
元気に言えた
ねーねー!
お母さん、犬だよ、子犬!
かわいいよ、一緒に見てよ
実は、お母さんも動物が好きで、お散歩中の犬などを撫でてしまうほどだ。
ただ、いつも言うのは、
動物はね、いい加減な気持ちでは飼えないのよ!
あんたが責任もって育てられるの?
無責任な気持ちで飼ったらよけいに動物がかわいそうになるんだからね。
今までに何度となく学校の帰りに子犬を拾って帰ったことがあるが、必ずこう言われて元の場所に戻しにいった。
当時は、野良犬や野良猫の親子が空き地によくいた、古い倉庫の中、廃屋にもだ。家にもって帰れないのならと、家の牛乳を持ち出してあげたこともあるし、給食を残して帰りに食べさせにもいった。
お母さんを連れて子犬のもとへ。
あらあら、かわいいわね
震えて鼻まで垂らして
かわいそうに
かわいいでしょ
と、お母さんは目を細めていた、
ね、ね、
きっと捨てられてしまったんだよ
家で飼おうよ!ね、
いいでしょ、いいでしょ!
一応お母さんも考える。
おなか空いているかもしれないから、ご飯は食べさせてあげようね、でも、飼わないわよ。元気だったら元に戻しなさい。
今では見なくなったこの情景、昭和の時代はよく見た。
とりあえず家に連れていくことになった。
体が濡れていたのでタオルで拭いてあげて、あたためた牛乳をあげてみる。
子犬はすごい勢いで飲み干した、というか黒い鼻先はびちょびちょだし、周りにいっぱいこぼして。
飲んでいるより
こぼしているほうが多いよ!!
お母さん、お願い
飼ってもいいでしょ
飼うのはダメよ
あんたは、はじめだけで最後まで面倒見ないでしょ!
ノラのほうが幸せなんだから
野良犬は野良犬として自由に生きていった方が幸せと思うお母さんであった。
お願い大作戦
お母さん、僕は寂しいんだよ。今は友達がいないの、一緒に学校へ行く友達も、一緒に帰る友達も、休み時間に遊ぶ友達も。
絶対、この子を飼うんだ!
考えた、小学4年生の頭で考えた!
結論
- 南極物語を読み感想文を書いて、犬への愛が噓ではないことを伝える。
- 犬の犬種をおぼえて、犬への愛が噓ではないことを伝える。
どうですか?完璧でしょ。
感想文など勉強的なことにつなげるとお母さんが弱いことをしっている。
今回の僕はそれくらい本気だ! だって友達がほしいから!
子犬は、牛乳と味噌汁をかけたご飯を食べて寝てしまった。
居場所は玄関のなか。
子犬が起きてしまったら、お母さんに戻してくるように言われるのはわかっている!
時間がない、急いで駅前の本屋さんに走った。
\僕が読んだのは南極物語 漫画版/
お母さん
僕は集中するから、話しかけないでよ!
本気だから
普段はまったく勉強なんかしない僕だ、お母さんが、「アレ!ワニオの気持ちがちょっとちがうな」と思ったのが手に取るようにわかった。
1時間で読んで感想文も書いたよ!
感想文
なんきょくはさむいところです。
タロとジロは置いていかれてかわいそだ。
リキとテツはいいいぬだ。
タロとジロをたすけてしんだ。
むかえにきてもろてよかた。
ワニオ
お母さんに提出完了。
う~ん
・・・・・フフッ(笑)
あとひと押し!
\これも一緒に買ってきたのだ/
これも1時間暗記!!
お母さん聞いて!
僕は犬が好きだから、いっぱいの犬の種類が言えるんだよ!!
39年前におぼえた犬種、今でも言える。
何も見ずにガチで書いてみます。お急ぎの方はとばしてください。
- 柴犬
- 秋田犬
- 甲斐犬
- 土佐犬
- マルチーズ
- ヨークシャーテリア
- ペキニーズ
- チワワ
- パグ
- ブルドック
- コリー
- シェットランドシープドッグ
- チャウチャウ
- セントバーナード
- ダックスフンド
- ドーベルマン
- ポメラニアン
- パピヨン
- シェパード
- ハスキー
- ゴールデンリトリバー
勉強はまったくおぼえないのに、この時の犬の種類はしっかりおぼえた。
お願い
お母さんお願い
・・・・
ちゃんと面倒みられるの?
お母さんは面倒見ないからね!
あんたひとりで、お散歩も、ご飯の世話もしないといけないのよ!一生なのよ、わかっているの?
わかっているよ!
僕が責任もって面倒見る!
一生一緒にいるもん!
一生大切にするもん
約束する!!
絶対一生大切にするよ!!
わかったわ!
飼っていいわよ!
もー仕方ないわね
お母さんだって、うれしいくせに
OKもらったらすぐに調子に乗る。
名前は決まっている!
南極物語を読んで好きになった「テツ」だ!
物語のテツは勇敢で優しかった、最後には死んでしまうが、主役よりこっちを気に入ってしまうのは今も同じ。僕の性格だ。
その日から
毎日が楽しくなった
なぜかって
テツと一緒だから
学校のひとりなんて気にならない
だって
僕にはテツがいるから
テツ
僕が一生面倒見てあげるからね
それは突然に
朝は、早く起きた。
テツの散歩に行くから、といってもまだ赤ちゃんだから家の前で放して、よちよち10分ほど。
目的はおしっことウンチをさせること。
お母さーん
ぜんぜんおしっこしないよ?
おちんちん
優しく揉んでみたら
テツを抱っこしてひざの上に乗せておちんちんをモミモミ。
ちょろ!!
でたーーーー!!
かわいい(笑)
それが終わると玄関に戻り、お皿にご飯と味噌汁をかけたご飯をあげた。
今思えば、犬には塩分が多すぎるが、当時は知らなかった、ごめんねテツ。
時には鯖の缶詰めを開けて、骨がつかえたら困るから、僕が一度口に入れてかみ砕いてからぺっと吐き出して食べさせることも。
テツはおいしそうに食べた。好き嫌いはなく、なんでも一生懸命に食べる。
その姿を見るのが、僕はすきだった。
学校もつらくはなくない。
げた箱から校門まで校庭を横切る時も、ずっとテツのことを考えていたから、誰かの視線なんて気にもならなかった。
玄関もすぐに開けられる!
ただいまの声も元気に言える!(テツにだけど)お母さんごめん。
僕が帰ると、テツは
ものすごく!ものすごく!喜んだ。
お尻がとれちゃうんじゃないかと心配するくらいブルンブルンとシッポを振って。
飛びついてきて、顔をベロンデロン舐めてくれる。
ハウ ハウ ハウ
テツは吠えない、吠え方を知らないのかなと思うほど吠えない。
夜は玄関の腰掛け部分で寝るテツ。
そこに僕も一緒になって横になる、そして眠くなるまで撫でていた。
おちんちんの周りの毛が生えていないところを撫でるのがつやつやで気持ちがいい。
そんな毎日が楽しく、幸せだった。
それは、突然に!!
テツを飼い始めて一週間がすぎた平日の夕方。
ガン!ガン!ガン!ガン!
家のすりガラスの玄関を強く叩く音がした、お母さんも僕もテツもハッとする。
こちらが出る前に、ガラッと玄関が開く!(当時は戸締りなんてしていない)
そこに立っていたのは、中学生のガラ悪い不良の男子が1人。
うちのボロアパートよりも、もっと汚いトタンでできたアパートが壁を挟んだ裏の敷地にある。そこは砂利のだだっ広い敷地で、端の方にアパートが建っている。スラムのようなたたずまいに近寄りがたい雰囲気。そこにおばあちゃんと2人で暮らす、近所では顔の知られたワル。
不良はこう言った!
「おばさんさー、この犬は俺のだよ!だから返してくれよ!ずっと探してたんだよ、コイツが連れているのをみてすぐわかったよ。なあ、返せよ!」
僕はとっさに叫んだ!
首輪もしていないし、証拠なんてないじゃん
たしかにこの人の犬もしれないとも思っていた、裏から迷ってきたとしても不思議ではない。
不良は言う
「この鼻の先が黒いのが証拠なんだよ!テメー人の犬盗んでいるんじゃねーよ!泥棒だぞ!」
お母さんは、
あら、ごめんなさいね
知らなかったのよ
あなたの大事な子なのね
返すわ、許してね
と言って、素直にテツを明け渡した。
今考えれば、僕が下手な逆恨みで、なにかないようにとの判断だったのだろう。
僕は泣いた!
連れていかれるテツをみて!
僕は泣いた!
いなくなった玄関をみて!
僕は泣いた!
夜のふとんで!
そして叫んだ!
お母さんの
バカ!!
つづく
\犬の飼い方の本買いまくった/
\ワンちゃん大好きな人必見/
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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コメント
コメント一覧 (2件)
ワニオさんにもそんな時期があったんですね。犬の力は偉大です。癒されるし、仲間、家族ができたって力を貰える。ワニオ少年にとって物凄く心の支えになったんでしょうね。中学生の男の子は捨てたんでしょうか?ワニオさんが可愛がってるのを見て惜しくなった?表現が難しいですが、人の手に渡った瞬間、良く見えるってありますもんね。続き楽しみにしてます。
めめ様コメントありがとうございます。
はい、小学4年生の時に初めて犬を飼いました。お母さんには反対され続けるもどうにかです。
そうなんです、クラス替えした途端、孤独になってしまい寂しい毎日を・・・
そこを救ってくれたのがテツだったので、いなくなった時には悲しくて。お話は続くのでまた楽しんでくださいね。